鎌玉のよしなしごと

日々のよしなしごとをつぶやいているだけ。由無し言(とりとめもない話)か、良しな仕事(nice job!)かは、あなた次第。

「納品のない受託開発」や「アジャイルテロリスト」の話 #agile459 を聞いてきた

先週の金曜日に代休を取得して、松山で開催された以下のイベントに参加してきました。

イベント時のツイートを 「納品のない受託開発」や「アジャイルテロリスト」の話 #agile459 - Togetter にまとめています。view数も伸びていますが、ツイートのみでは聞いた話の半分も伝わらないかもしれません。特に、「納品のない受託開発」の話は中身の濃い話であり、両方のイベントに参加して、経営者視点と開発者視点でとらえ直して再発見できることがあったと思われます。ということで、両方のイベントや懇親会で聞いた話を元にして、以下にまとめなおしてみます。*1

倉貫さんによる「納品のない受託開発」の話

SonicGardenは、大手SIer内で、社内向けSNS「SKIP」を開発する社内ベンチャーカンパニーだったが、マネジメントバイアウト(MBO)をして独立。( 株式会社ソニックガーデンを設立しました〜退職から独立の経緯と起業への思い | Social Change! )
社内向けSNS「SKIP」やコミュニケーションツール「youRoom」を中心とした自社企画のサービスと、「納品のない受託開発(スタートアップ向けCTO提供サービス)」が事業の2本柱。3年目にして、事業費率は50:50になった。
社員数は5名で始めて、現在10名。
少ない人数で大きな仕事を行うため、次の3つの技術要素で仕事を行っている。


アジャイル開発とは、短いサイクルで 分析/設計/実装/テストを並列で行うやり方。「(プロセスやツールよりも)個人と対話」「(包括的なドキュメントよりも)動くソフトウェア」「(契約交渉よりも)顧客との協調」「(計画に従うことよりも)変化への対応」を価値とする開発方法。
現在のシステム開発で起きている問題は「要求の劣化」であり、完成したシステムの機能の45%が実際には使われていない。経営は四半期単位でPDCAを回していくが、ITも経営の一部として見直していくことが必要。アジャイル開発とは『いらない機能を捨てていくための開発』。反復・漸進で開発することにより、いらない機能をつくりこまない。
アジャイル開発が向いているのは、要件の予測が困難で日々変化していき、長期に開発が必要な「ビジネスの成長」を目指すプロジェクト。逆に向いていないのは、要件と納期が確定していて、短期的に一度にリリースが必要な「ソフトウェアの完成」を目指すプロジェクト。
ソフトウェアは完成だけしても、価値はない。むしろ負債でさえある。要件通りつくることよりも、システムで価値を産むことを重視する。


従来型の受託開発は「ディフェンシブな開発 ( ディフェンシブな開発 〜 SIビジネスの致命的欠陥 - kuranukiの日記(移転しました)→ http://kuranuki.sonicgarden.jp ) 」だった。「システムで価値を産むこと」よりも「要件通りつくること」を重視し、SIer側はリスクを取らずにバッファを積んで開発をしていた。顧客側も、お金さえ出せば赤字だろうと最後まで責任を持ってくれるので、SIer側に丸投げしていた。SIビジネスは『保険屋』*2として機能し、リスクの丸抱えをするだけの企業体力のみが優位性を持つ*3ようになった。そのため、SIerの合併が相次いだ。また、地方の企業でも受託開発を地元企業に直接発注せず、東京のSIerを一次受けとして、地元企業が二次受けで開発することもある。
SIerでは「人月による見積もりの大きさ」が受託開発ビジネスの売上げとなるため、プログラマは生産性が上がれば上がるほど評価が下がってしまう。
一括見積もりで完成を目指して「納品」することが問題ではないかと考えたため、一括請負でも、派遣でもない新しいビジネスモデルを考えた。


「納品のない受託開発」は、月額固定制で、オーダーメイドのシステムをクラウド上で提供するビジネスモデル。顧問契約した弁護士のように、固定されたエンジニア一人が、お客様と直接対話して価値のあるシステムを開発および運用を行う。エンジニアは、出来る範囲内で開発と運用をし、顧客企業の内製部隊としてライフサイクルすべてを受け持つ。
エンジニアは派遣しない。訪問もしない。打ち合わせは、ソニックガーデンへの来社や、ネット上で「youRoom」や「Skype」によって行う*4
また、要件定義して一括見積もりはせず、お客様と必要なものを相談しながら、1週間単位で継続的に開発を行う*5。仕様変更は大歓迎で、他の機能追加を後回しにするなど、優先順位で調整する。お客様が「こんな機能が欲しい」と言っても、お客様のビジネスに不要と考えたら、エンジニアがはっきりと「不要」という。
月額料金*6は全社共通にしており、一律にすることで営業的な調整を不要にしている。
「価値に見合うパフォーマンスを出すために全力で働くこと」は約束するが、ドキュメント作成や納期は約束しない。契約前にじっくり事業計画について相談して、契約後の1か月は無料でサービスを提供し、そこで実力を見てもらう。
クラウドであるため、バグが出ても直ぐに直せ、落ちても直ぐに復旧できる。
また、ビジネスプランよりユーザーからのフィードバックを重視している。

「納品のない受託開発」は『新規事業・スタートアップ』における スモールスタートでスケールしていく外向けのWebサービス開発 に向いている。社内システムなど、ユーザー数が変わらない場合は向いていない。ただし、社内システムの共通業務は、今後 Sales Forceなどクラウドサービスに移ると考えられる。
「納品のない受託開発」は技術顧問が月額固定で提供されるため、ビジネスアイデアを持っているが、社内にエンジニアのいないスタートアップ支援に向いている。
スタートアップでなくても、お客様には、自社のこれまでのサービスではなく、新規事業として考えるようにお願いしている。
「納品のない受託開発」には営業担当がいないが、ブログを見たお客様から多くの問い合わせ、依頼がある。


ソニックガーデンは「プログラマを一生の仕事にする、高みを目指し続ける」をポリシーに掲げ、属人性を重視している。お客様との対応などはエンジニア任せにしていて、管理せず、中間管理職をおいていない。信頼できるエンジニアを確保するため、1人を採用するのに半年をかけている。
採用で重視するのは、以下の項目 ( 詳細はプログラマの採用のときに見極めるTIPS〜テクニック・インテリジェンス・パーソナリティ・スピード | Social Change! ) 。

  • T(テクニック。ソースコードを見せてもらう)
  • I(インテリジェンス。地頭の良さ)
  • P(パーソナリティ。社員と飲みに行き、社員がその人ともう一度飲みに行きたいかで判断する[ビアテスト] )
  • S(スピード)

技術力が高くても、協力できないような人は採用しない。
採用した新人は、誰かの弟子になってもらい研鑽してもらう。
弟子の給料は、社員全員の給料分から出す*7

ベテランなら、担当企業を4社は持てると思うが、残業する会社にしたくないため、担当企業は2社としている。
週の半分を「納品のない受託開発」を行うことで売上げの見込みが立つ。残りの半分を自社サービスの開発に割り当てている。チームをわけるのではなく、1人の時間をわけることで(自社サービスチーム VS 受託開発チームという軸で)ギスギスしないようにしている。

「納品のない受託開発」では、エンジニアが実際に働いた時間をお客様に絶対言わない。成果は、クラウド上のシステムで見せる。*8
また、クラウドで提供することで、社員はどこで仕事をしてもいいことにしていて、兵庫や岡山でリモート勤務( リモート勤務のようすを紹介します - give IT a try )している社員もいる。

担当者が抜けても*9お客様に迷惑を掛けないように、以下の対応をしている。


ソニックガーデンは、プログラマとして長く一緒に働きたい、IPOやバイアウトは目指さない、短期決戦はしないことをポリシーとしている。ナレッジワーカーの会社は大きくならないほうがよい。人を信頼して、仕事を任せるため、個人の顔が見える範囲でよいと考えている。

ただし、「納品のない受託開発」を広めるため、「ソニックガーデンギルド http://www.sonicgarden.jp/guild 」という制度を用意した。
ぼろもうけはできないが、安定したキャッシュフローが得られる。開発言語は統一していない。

牛尾さんによる「アジャイルテロリスト」の話

XPを知って「これはテロだ」と考え、社内でアジャイル開発を広めようとしたけど、価値を認めてもらえず、コンサルタントになった。
コンサルタントとしても、顧客と直接契約するようにしたら、お金が入ってくるようになった。
でも、お金=幸せか?お金ないけど幸せそうな人はいっぱいいる。
自分が幸せと思う方向に意思決定して、行動するようにした(幸せシフト化)。
英国に短期留学(アジャイルの流儀で英語に挑戦! - [英国編1]海外への短期留学はオススメ!:ITpro)して、かわいいドイツの女の子と知り合いになれた*10
でも、まだ満足できない。
そんなとき、倉貫さんの「納品のない受託開発」の話を聞いて、これは「凄いテロ」だと感じた!
また、ソニックガーデンの社員はみんな幸せそうだ。
ソニックガーデン以外にも自由なライフスタイルと楽しい仕事の会社*11が、同時多発テロ的に出現している。『あたらしい働き方』を実践している。

あたらしい働き方

あたらしい働き方

ハッピーな仕事を手に入れるためには、それなりの覚悟と能力が必要

感想

「納品のない開発」については、はてなブックマークのホットエントリに何度もあがったときにエントリを流し読んだのですが、実際に話を聞いてみて「これは受託開発に対するテロ」だなと感じました。
『新規事業・スタートアップのWebサービス』というプロジェクトにはベストマッチですが、大規模なシステム開発やビジネス側のフィードバックが遅い開発には向いてないと思われます。しかし、向いていないプロジェクトは無理して取らず、納得できるプロジェクトのみに受託するため、問題にはなりません。
以下のエントリから、契約に入る前に、顧客側の事業計画を徹底的に叩いている様子が窺えます。
MessageLeafの出来るまで 【その1】〜考えついたものは大体誰かがやっている〜 - SonicGarden 株式会社ソニックガーデン
助け合いの社会を作りたい! 〜 AsMama甲田社長がソニックガーデンを選んだ理由 | Social Change!

それは、このビジネスモデルに絶対の自信を持たれているからだと感じました。
この「納品のない受託開発」は、信頼できる仲間とともに一生プログラマで食っていくと決め、能力の研鑽に励むという強い思い( プログラマは職人、力なければ淘汰されて然るべき―ソニックガーデン倉貫氏が問う、プログラマの覚悟。│CAREER HACK )から生み出されたもので他社は半端な覚悟で実践することができません。また、ソニックガーデンや倉貫さんたちが、これまでやってきた講演( DevLOVE2012 Day1 Vol.2:Social Change 〜ソフトウェア開発者が経営者になるまでと、これからの戦略〜 / 倉貫 義人氏 #devlove2012 #devlove2012a - Shinya’s Daily Report )やブログでの露出、内容の素晴らしさによって、信頼されている部分が多々あると思います。

これはソニックガーデンの真似をするのではなく、それぞれの会社のポリシーを踏まえて、新しいビジネスモデルをつくり、ブルーオーシャンに挑んでいかなければ、今後の受託開発に先はないなと思いました。
個人としては、現場でテロを行って技術の鍛錬に勤め、より多くの信頼貯金を勝ち取るように努めていこうと思います。

今週末以下のDevLOVE関西イベントで、倉貫さんの話を聞くことができます。詳しいことを聞きたい方は是非参加されたらいいと思います。*12
「納品のない受託開発」を語る会 - DevLOVE関西 | Doorkeeper
DevLOVE関西 ~Decision~ - DevLOVE関西 | Doorkeeper

倉貫さんは祖父母が徳島出身で、幼少期にはよく徳島に遊びに来られていたそうです。できれば、徳島でも「納品のない受託開発」の話を聞いてみたいと思いませんか?


徳島と言えば、再来週の土曜日(11/23)に「オープンセミナー2013@徳島 http://kokucheese.com/event/index/126570/ 」というイベントがあって、日本マイクロソフトエバンジェリスト兼アジャイラーの長沢さんが講演されます。懇親会では、ぶっちゃけトークをされるそう( オープンセミナー 2013 @ 徳島 講演 | "SoftwareEngineeringPlatform.com" ) なので、是非本編ともども参加して、アジャイル開発って何、ビジネスに答える開発って何というところを考える機会にしていただければいいなと思います。長沢さんの他にもLibreOfficeコミュニティの榎さんや日本オラクルの奥野(@nippondanji)さんも講演されるので注目のイベントです!

*1:私の聞き間違い、理解が不足しているところも大いにあるかもしれないので、ご注意ください

*2:これは倉貫さんが言い出したのだったのでしょうか?

*3:大手SIerでは年間数百本のプロジェクトが実行されているため、多少の赤字プロジェクトがあっても、黒字プロジェクトによって補填される

*4:エンジニアが集中して作業ができる!

*5:アジャイル!

*6:非公開だそうです

*7:それに反発する社員はソニックガーデンにはいない。

*8:人月でなく、提供する価値で判断してもらっている

*9:トラックNo.1問題 - キーとなる1人のメンバーがいて、彼がトラックに跳ねられてプロジェクトが止まってしまうようなら、トラックナンバーは1である

*10:とても重要らしい

*11:37 Signals、Team Labo、Evernoteなど

*12:土曜は私も参加予定です